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更新日:2022年7月5日 3,137PV
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身体に負担の少ない胃がんの手術・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

発信者
  • 岐阜県総合医療センター 消化器内科
執筆者
  • 清水省吾
  • 岐阜県総合医療センター 消化器内科 部長

キーワード

早期の胃がんは無症状であることが多いのですが、近年、検査方法の進歩や検査件数の増加などにより早期で見つかることが増えてきました。胃がんの治療法は「内視鏡的切除」「外科手術」「薬物療法」に大別されます。胃がんの進行度(病期/ステージ)、患者さまのお身体の状態などによって治療法を検討します。
今回は、がんが粘膜層にとどまり、リンパ節転移が認められないと診断された早期胃がんに適応される内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)について詳しくご紹介します。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は、お腹を傷つけることなく内視鏡を挿入して行われるため身体に負担が少ない低侵襲治療です。(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection)

早期の胃がんに適応される身体に負担の少ない内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

早期の胃がんに対して行われる内視鏡手術は、口から挿入する内視鏡(胃カメラ)を用いて患部の切除を行うため、外科手術のように開腹する必要がなく、身体に負担の少ない低侵襲手術です。
従来、早期の胃がんの内視鏡手術は内視鏡的粘膜切除や内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)という治療法が主流でした。一方これらの治療法には切除できる範囲などに限界があり、局所再発する確率が高いことが問題でした。
そこで、1990年代の日本で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)という手法が開発されました。高周波を発するメスを用いて患部を直接切除します。約1週間から10日程の入院期間になります。
病変が過不足なく切除できるというメリットがある一方、次のような偶発症があります。治療後の「出血」や切除部分に穴が開く「穿孔」を生じることがあります。そのような偶発症が起きた際には、緊急手術を要する場合があります。非常に稀な偶発症ですが、迅速な対応で処置いたしますのでご安心ください。
切除した病変を顕微鏡による組織検査(病理診断)を行い、内視鏡の治療による根治度を判定します。根治したと判断された場合には、退院後の予後は安定しており、その後の通院も必要ありません。定期的に受診していただき、がんが再発したり転移していないかを経過観察するケースもあります。残念ながら根治したと判断されなかった場合には、改めて外科的な追加治療を必要とする場合があります。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の特徴・メリット

  • 早期胃がんに適応
  • 身体に負担が少ない低侵襲治療
  • 短い入院期間(1週間から10日程度)で治療を受けられる
  • 口から挿入する内視鏡で治療するので、傷口が生じない

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の流れ

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の流れを説明します。

<①マーキング>

内視鏡を胃の中に入れ、病変部分にマーキングをします。 このマーキングに沿って切り取りをします。

<②局注>

局注とは、薬物を注入することを指します。 ESDの場合は、胃の粘膜下層という部分に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入して患部を浮かせた状態にします。

<③切開>

マーキングに沿って、高周波を出すナイフを用いて切開します。

<④粘膜下層の剥離(はがすこと)>

ナイフで病変部分を少しずつ剥がしていき、切り取ります。

<⑤患部の回収>

切り取った部分は、その後組織検査に出すため、回収します。

<⑥最終確認>

切り取った後は、出血がないか、穴が空いていないか観察して完了です。 治療は鎮静下(眠った状態)で行います。

岐阜県総合医療センターの治療実績

岐阜県総合医療センターの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の治療実績をご紹介します。 2021年度の胃と食道の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は103例で、毎年その件数は増加しています。また大腸の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は86例で、こちらも同様に増加しています。

早期胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)のまとめ

最後にもう一度、早期の胃がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の特徴やメリットをまとめてみましょう。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の特徴・メリットのまとめ

  • 粘膜内にとどまり、リンパ節転移などが認められない早期がんが対象
  • 身体に負担が少ない低侵襲な治療
  • 短い入院期間(1週間から10日程度)で治療を受けられる
  • 口から挿入する内視鏡で治療するため、手術による傷が生じない

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応は、早期がんに限定されます。胃がんは初期症状が現れづらい特徴があります。早期発見、早期治療が大切ですが、定期的な検診で偶然発見される場合もあります。気になる症状があれば、かかりつけの先生にご相談ください。

診療所等の先生から専門的な検査・治療が必要だと判断された際には、紹介状を持って当院へお越しください。

画像提供:PIXTA