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更新日:2022年8月1日 2,701PV
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高齢者に最も多い弁膜症 – 大動脈弁狭窄症(AS)に対する 低侵襲治療 – 経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)

発信者
  • 岐阜県総合医療センター 循環器内科
執筆者
  • 矢ケ﨑 裕人
  • 循環器内科 医長

キーワード

心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、全身に血液を循環させるポンプの役割を果たしています。それぞれの部屋を分け隔てる扉のようなものがあり、それを弁と呼びます。弁は血液が一方向に流れるように整えるために存在していますが、その弁が、何らかの障害で機能しなくなるのが心臓弁膜症です。
心臓弁膜症は2つに大別されます。弁の開きが悪くなり血流が妨げられる「狭窄症」、弁が正常に閉じなくなり血液が逆流する「閉鎖不全症」です。
今回は、加齢などにより弁が固くなり、動きが悪くなること(石灰化)で起こる「大動脈弁狭窄症(AS)」と、それに対する治療法の一つである身体に負担の少ない低侵襲治療「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI: タビ)」をご紹介します。

あなたの息切れ・疲れやすさは弁のせい!?身近な弁膜症:大動脈弁狭窄症(AS)

心臓が原因で息切れや浮腫をきたしてしまう病態を「心不全」と呼びます。心不全は日常生活の質を落としてしまうだけでなく、寿命を縮めてしまう怖い病気です。入院してしまうほどの心不全(急性心不全)に弁膜症は大きく関わります。この心不全につながる弁膜症の中で、最も多いものが、大動脈弁狭窄症(AS)です。
大動脈弁狭窄症(AS)は加齢に増加する疾患で、軽症の方も含むと75歳以上の13.1%が抱えているとされます。私が居住している岐阜県で試算を行うと、約12万人の大動脈弁狭窄症(AS)患者がいることになります。このうち、何らかの治療を要する重症と診断される患者数は約2万人と推測されます。しかし、重症と診断される患者さんでも、約半数は無症状であるというデータがあります。無症状という言葉も要注意で、年のせいと思っている息切れや疲れやすさが大動脈弁狭窄症(AS)のせいといったことを度々経験します。また、昨今無症状もしくは症状が軽い段階でも治療を行った方がよいという報告があり、治療を提案させていただいております。

高齢者でも受けられる低侵襲治療:経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)

従来、心臓弁膜症の治療においては外科的な人工弁置換術・弁形成術という手術が唯一の治療方法でしたが、手術リスクの高い高齢者や体力の低下が認められる方、過去に胸を開いて手術をしたことのある方などは断念せざるを得ない場合がありました。
大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は、胸を開いたり、心臓を一時的に停止したりする必要がないため、身体への負担の少ない治療で、上記のような高齢者の方なども治療を受けることができます。
カテーテルという手術用の細い管を、太ももの付け根の血管から挿入する方法(経大腿アプローチ)と、左胸の肋骨を小さく切開した後心臓の先端から挿入する方法(経心尖アプローチ)がありますが、基本的には太ももの付け根の血管からの経大腿アプローチとなります。
カテーテルの先端には折り畳まれた状態のバルーン、ステントという網目状の金属製の筒、またステントの内側に動物から摘出した弁(生体弁)が装着されています。
レントゲンを見ながら狭窄した大動脈弁の位置でバルーンを広げ、生体弁を大動脈弁の位置に留置することで、狭窄の改善を図ります。
治療による傷口は、カテーテルを挿入するための数ミリ程度のもので、患者さんの身体への負担が少なく、2時間前後と短い治療時間、治療の翌日から歩行可能、入院期間も約1週間と非常に負担の少ない治療となっています。退院直後から元の生活に復帰することが可能です。

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の特徴

  • 身体に負担が少ない低侵襲治療なので、高齢者でも治療が可能。
  • 傷口はカテーテルを挿入するための数ミリ程度。
  • 治療時間は、2時間前後で完了できる。
  • 短い入院期間(約1週間)で治療を受けられる。

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の流れ

大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の流れを説明します。

①カテーテルの挿入

鉛筆程度の太さに折りたたんだ整体弁を装着しているカテーテルを挿入します。 2種類のアプローチ方法があり、若干挿入方法に違いがあります。

経大腿アプローチ
経大腿アプローチでは、太ももの付け根にある「大腿動脈」からカテーテルを挿入して心臓まで届けます。

経心尖アプローチ
肋骨で6〜7cmほど小さく切開し、そこからカテーテルを挿入し心臓の先端まで届けます。

②バルーン留置

生体弁が大動脈弁の位置に到達したら、バルーンを膨らませて生体弁を広げ、その位置に留置します。

③カテーテル抜き取り

生体弁の留置が確認できたら、カテーテルを抜き取ります。

当センターの治療実績

岐阜県総合医療センターでは経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が国内に導入された早期から実施しており、良好な治療実績を積み重ねています。経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の診療実績が十分ある施設のみが認定される、専門施設に認定されており、地域の方々に最新の知見をもって大動脈弁狭窄症(AS)の診療を行っております。

治療法 2019年 2020年 2021年
経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI) 54 50 52

大動脈弁狭窄症(AS)の手術:経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)のまとめ

では最後にもう一度、大動脈弁狭窄症(AS)とその治療法である経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)について重要なポイントをまとめてみましょう。

大動脈弁狭窄症(AS)/経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)のポイント

  • 大動脈弁狭窄症(AS)は、高齢者に多く、心不全に繋がり、息切れや寿命に関わる怖い疾患です。
  • 早期発見・早期治療が重要です。
  • 症状に気づきにくく、発見が遅れやすい病気です。
  • 特に健康診断時の心雑音があると指摘された際には注意しましょう。
  • 息切れや疲れやすさが主な症状ですが「歳のせい」と放置せず、まずはかかりつけ医に相談しましょう。
  • 大動脈弁狭窄症(AS)の自覚症状
    ・息切れ
    ・呼吸困難
    ・咳(特に夜にひどくなる)
    ・動悸
    ・胸痛
    ・失神
  • 経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)は、身体に負担が少なく高齢者や既に人工弁を装着した患者さんでも受けることができます。

気になる症状がある方は、かかりつけの先生にご相談ください。診療所等の先生から専門的な検査・治療が必要だと判断された際には、紹介状を持って当院へお越しください。当院の専門医、多職種チームが診療にあたります。

画像提供:PIXTA